長崎県五島列島沖の日本のEEZ(排他的経済水域)で、中国の虎網漁船が水産庁に拿捕され、船長が現行犯逮捕されました。
停船命令を拒否し逃走したことが発端とされていますが、背景には「虎網漁法」と呼ばれる高効率な漁法への懸念や、東シナ海の水産資源をめぐる問題が横たわっています。
そもそも「中国漁船を拿捕」とはどういう意味なのか。逮捕とは何が違うのか。虎網漁法とはどのような漁法で、なぜ問題視されているのでしょうか。
本記事では、今回の拿捕・逮捕の経緯から、EEZの法的仕組み、虎網漁法の実態、そして今後の日中関係や資源問題への影響まで、わかりやすく整理して解説します。
1. 中国漁船を拿捕・逮捕とは何が起きたのか【最新ニュース整理】
日本の排他的経済水域(EEZ)内で操業していた中国虎網漁船が水産庁に拿捕され、船長が現行犯逮捕されました。今回の事案は、日本のEEZにおける主権的権利の行使を明確に示す象徴的な出来事です。
1-1. 長崎・五島列島沖EEZでの拿捕の概要
事件が発生したのは2026年2月12日です。場所は長崎県五島列島女島沖の日本の排他的経済水域内でした。
拿捕されたのは、中国の虎網漁船「チオントンユィ11998」です。船長のチォンニエンリー容疑者(47歳)が現行犯逮捕されました。乗組員は船長を含め11人でした。
今年に入って外国漁船が拿捕されたのは初めてであり、中国漁船の拿捕は2022年以来となります。近年落ち着いていた事案が再び発生したことで、関係者の間に緊張が走っています。
1-2. 違反内容と適用された法律
今回の最大の問題は、停船命令に従わず逃走したことです。
水産庁の立ち入り検査に対し、対象漁船は停止せず、逃走を試みました。これにより、「排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律」違反(質問・検査の拒否・忌避罪)の疑いが持たれています。
EEZ内では、日本は水産資源に関する主権的権利を持っています。したがって、外国漁船が操業する場合には、日本の検査や命令に従う義務があります。今回のケースは、その法的枠組みを無視した行為と判断されたのです。
1-3. 拿捕したのはどの船か
今回の拿捕を行ったのは、水産庁漁業取締船「白鷗丸(はくおうまる)」です。さらに、「なのつ」「むさし」「白萩丸」が捜査を支援しました。
複数の取締船が関与したことからも、現場が緊迫した状況であったことがうかがえます。停船命令に従わない船舶への対応は、安全確保の観点からも慎重かつ迅速な判断が求められます。
今回の事案は、日本のEEZ内での違法操業への対応姿勢を改めて示すものとなりました。
2. そもそも「中国漁船を拿捕」とはどういう意味か
中国漁船を拿捕するとは、日本の排他的経済水域(EEZ)内で違法操業や命令違反があった場合に、日本の取締機関が船舶を強制的に確保する措置を指します。単なる注意や警告ではなく、法的拘束力を伴う強制措置です。
2-1. 拿捕とは?逮捕との違い
「拿捕」とは、船舶そのものを強制的に取り押さえ、支配下に置くことを意味します。対象は“船”です。
一方で「逮捕」は、違法行為を行った“個人”を身柄拘束することを指します。今回の事案では、中国漁船を拿捕し、さらに船長を現行犯逮捕しています。つまり、船と人の両方に対して法的措置が取られたということです。
海上での取り締まりでは、まず停船命令を出し、検査に応じなければ逃走防止措置を取り、最終的に拿捕へと進む流れになります。重大な違反が確認されれば、船長などの責任者が逮捕される場合があります。
2-2. EEZ(排他的経済水域)とは
EEZとは、沿岸国が水産資源や海底資源について主権的権利を持つ海域です。通常、沿岸から200海里まで設定されます。
EEZ内では他国の船舶も航行自体は可能ですが、漁業活動については沿岸国の許可やルールに従う必要があります。今回の現場である長崎県五島列島沖も日本のEEZ内にあたります。
日中間では日中漁業協定が存在し、東シナ海には「中間水域」も設けられています。しかし、日本のEEZ内で操業する場合には、日本の法律が適用されます。停船命令を拒否すれば、法違反となります。
2-3. なぜ拿捕が問題になるのか
中国漁船を拿捕する事案は、単なる漁業違反にとどまりません。外交問題に発展する可能性があるからです。
過去にも中国漁船をめぐる拿捕事案は日中関係に影響を与えてきました。船員の安全確保や早期釈放を求める声明が出されることもあります。
しかし、日本側はあくまで国内法に基づいて淡々と処理する立場を取っています。EEZ内での主権的権利を守ることは国家の基本的責務です。外交配慮と法執行のバランスが常に問われる分野といえます。
3. 虎網漁法とは?中国漁船「虎網」の実態
今回拿捕された中国漁船が用いていたのは「虎網(とらあみ)」と呼ばれる漁法です。虎網漁法は、効率性の高さと引き換えに資源管理上の懸念が指摘されている新しい漁法です。
3-1. 虎網漁法とは何か
虎網漁法とは、大型の袋状の網「虎網」を使用する漁法です。
まず灯船が強力な集魚灯で魚群を集めます。その後、虎網を装備した漁船が旋回しながら魚を囲い込み、最後に船尾から網を巻き上げて一気に漁獲します。
特徴は、巻き網と底引き網の両方の機能を併せ持つ点です。広範囲の魚群を効率的に囲い込み、短時間で大量に漁獲できる構造になっています。
主な対象はサバやアジなどの回遊魚です。集魚灯の光に集まる性質を利用するため、夜間操業が中心となります。
3-2. 中国漁船 虎網の特徴
中国や台湾では、この虎網漁法の導入が急速に進んでいます。
特徴として挙げられるのは、非常に大型の網と強力な集魚灯の使用です。広範囲の魚群を包み込むため、一度の操業で大量の漁獲が可能です。
2013年時点で中国の虎網漁船は約290隻存在していたとされ、その後も増加傾向にあるとみられています。東シナ海の中間水域でも操業が確認され、日本側の漁業関係者からは強い警戒感が示されています。
3-3. メリットと課題
虎網漁法は、漁業経営の観点から見ると大きなメリットがあります。
・少人数で操業可能
・人件費や燃料費の削減
・従来の約3倍の漁獲量になる場合もある
効率性という点では非常に優れた漁法といえます。
一方で、深刻な課題も指摘されています。
・網を一気に引き上げるため魚が傷つきやすい
・稚魚や小型魚まで捕獲してしまう可能性
・乱獲による資源枯渇リスク
長崎沖では「海の掃除機」と表現されることもあり、地元漁業者からは資源への影響を懸念する声が強まっています。
日本では現在、この虎網漁法は導入されていません。資源管理型漁業を重視する国内方針との整合性が大きな理由とされています。
4. なぜ虎網漁が問題視されているのか
虎網漁法が問題視されている最大の理由は、資源への影響が極めて大きいと懸念されているからです。効率性の高さが、そのまま乱獲リスクの高さにつながる可能性があります。
4-1. 「海の掃除機」と呼ばれる理由
虎網漁は一度に広範囲を囲い込み、魚群をまとめて引き上げます。そのため、特定の魚種だけでなく、周囲にいる魚もまとめて漁獲してしまう可能性があります。
地元漁業者の間では「海の掃除機」と表現されることもあります。長崎沖では、ルールを守りながら漁獲量を調整し、資源を維持してきた漁師が多くいます。そこへ効率性を最優先する漁法が入り込めば、資源バランスが崩れるのではないかという強い危機感があるのです。
特にアジやサバといった回遊魚は、地域の沿岸漁業を支える重要な魚種です。大量漁獲が継続すれば、翌年以降の漁獲量にも影響が出る可能性があります。
4-2. 東シナ海での資源問題
東シナ海では、日中漁業協定に基づき中間水域が設定されています。しかし、資源は海流とともに移動するため、水域の線引きだけで完全に管理できるものではありません。
中国漁船による虎網操業が拡大すれば、日本側の漁獲量減少につながるのではないかという懸念が指摘されています。実際、東シナ海におけるアジ・サバ類の資源管理は年々重要性を増しています。
強力な集魚灯を用いた操業は、広範囲の魚群を引き寄せるため、漁獲圧が局所的に高まる可能性があります。短期的には収益が上がっても、長期的には資源の持続性が問われます。
4-3. 日本で導入されていない理由
日本では現在、虎網漁法は導入されていません。その背景には、資源管理型漁業への転換があります。
日本の漁業政策は、TAC(漁獲可能量)制度や資源評価に基づき、持続可能性を重視しています。効率性が極端に高い漁法は、資源管理との整合性が難しい側面があります。
また、沿岸漁業との公平性の問題もあります。大規模で効率的な漁法が広がれば、従来型漁業との競争が激化し、地域漁業の存続に影響する可能性もあります。
そのため、日本国内では慎重な姿勢が取られているのです。
5. 今後どうなる?中国漁船拿捕問題の行方
今回の中国漁船拿捕・船長逮捕は、日本のEEZにおける法執行の姿勢を明確に示す出来事となりました。今後は、国内法に基づく手続きとともに、日中関係への影響も注視されます。
5-1. 法的処理の流れ
まず進むのは、日本の法律に基づく刑事手続きです。
船長は「排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律」違反の疑いで逮捕されています。今後は検察の判断を経て、起訴・不起訴が決まります。
過去の類似事例では、罰金の支払い後に釈放されるケースもありました。違法操業の内容や逃走の悪質性が処分の重さを左右します。
また、船舶自体についても、担保金の納付や行政処分の対象となる可能性があります。
5-2. 日中関係への影響
中国漁船の拿捕は、しばしば外交問題に発展します。
中国側が船員の安全確保や早期釈放を求める声明を出す可能性もあります。一方で日本側は、自国のEEZ内での違法行為に対しては国内法を適用するという一貫した立場を取っています。
重要なのは、感情的対立ではなく、法に基づく冷静な対応です。EEZでの主権的権利は国際法上認められた権利であり、これを適切に行使することは当然の措置といえます。
5-3. 日本はどう対応すべきか
今後の鍵は、継続的かつ厳正な取り締まりと資源保護の強化です。
虎網漁法のように高効率な漁法が広がる中で、海洋資源の持続可能性はこれまで以上に重要になります。短期的な漁獲量よりも、長期的な資源管理が優先されるべきです。
また、日中漁業協定の枠組みの中で、操業実態や資源評価を共有し、透明性を高めることも必要でしょう。海はつながっており、一国だけで資源を守ることはできません。
今回の中国漁船拿捕は単発の事件ではなく、東シナ海の資源管理と法秩序の在り方を問い直す出来事です。日本は主権的権利を確実に行使しつつ、国際ルールに基づく冷静な対応を続けることが求められます。