現代の産業界において「産業のビタミン」と称される重要資源、レアアース。
ハイブリッド車やスマートフォン、さらには防衛装備品に至るまで、先端技術の製造には欠かせない物質です。
日本は現在、レアアースの多くを輸入に頼っていますが、実は国内に世界有数の資源が眠っている可能性が浮上しています。
本記事では、大きな注目を集める「南鳥島」の深海資源と、2026年1月に新たな動きがあった「群馬」の陸上資源について、最新の現状と採掘実現への道のりを詳しく解説します。
1. 【南鳥島】日本の救世主となるか?深海に眠る大量のレアアース資源
日本のレアアース採掘計画において、最も現実的かつ大規模なプロジェクトが進んでいる場所は、東京都小笠原村に属する南鳥島の周辺海域です。
南鳥島沖は、国家戦略として実証実験が進む唯一のエリアであり、商業化に向けた準備が着々と進行しています。
1-1. 世界を驚かせた発見!南鳥島沖の「レアアース泥」とは
南鳥島沖の海底には、世界最大級の埋蔵量を誇る「レアアース泥」が存在します。
東京大学の加藤泰浩教授らの研究チームによる調査で、南鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)内には、全世界の消費需要の数百年分にも相当する膨大なレアアースが眠っていることが判明しました。
特筆すべき点は、レアアースの中でも特に希少価値が高い「重レアアース」が豊富に含まれていることです。
電気自動車(EV)のモーターなどに不可欠な「ジスプロシウム」や「テルビウム」といった物質が高濃度で確認されており、資源としての質の高さは世界中の専門家を驚かせました。
1-2. 採掘成功への第一歩!成功した揚泥試験の成果
深海からの資源回収を実現するため、現在は地球深部探査船「ちきゅう」を用いた大規模な実証実験が行われています。
南鳥島のレアアース泥は水深5,000メートルから6,000メートルという超大水深に分布しています。
この深さから海底の泥を地上まで引き上げる技術は、世界的にも前例が少なく、極めて難易度の高い挑戦です。
しかし、日本は着実に技術的な壁を乗り越えつつあります。
2024年から2025年にかけて、地球深部探査船「ちきゅう」による世界初の大水深連続揚泥試験が実施され、成功を収めました。
さらに2026年には、実際の採掘機器を用いた動作確認作業が開始されています。
研究段階を終え、実用化を見据えた技術検証のフェーズへ突入していると言えます。

1-3. 南鳥島が注目される理由:経済安全保障の観点から
日本が巨額の予算を投じて南鳥島の開発を急ぐ背景には、中国への過度な依存を脱却し、経済安全保障を確立するという強い目的があります。
現在、日本国内で使用されるレアアースの約6割は中国からの輸入に依存しています。
中国政府は戦略物資としての管理を強化しており、輸出規制が行われると、日本の自動車産業や半導体産業は深刻な打撃を受けかねません。
産業の生命線であるレアアースを自国で確保する「国産化」は、日本のものづくり産業を守るために不可欠な戦略です。
南鳥島でのプロジェクトは、単なる資源開発を超え、国家の自立性を保つための最重要課題と位置づけられています。
2. 【群馬】意外な陸地での発見と、日本国内における鉱脈の可能性
海だけでなく、日本の陸地でも新たな資源の可能性が示されました。
2026年初頭、群馬県でレアアースを含む新鉱物が発見されたというニュースが駆け巡り、大きな関心を集めています。
2-1. 群馬県でレアアースが見つかった?その真相と発見場所
山口大学は2026年1月23日、群馬県の茂倉沢(もぐらざわ)鉱山において、レアアースを含む新たな鉱物4種を発見したと発表しました。
茂倉沢鉱山は、かつてマンガンを産出していた場所として知られる層状マンガン鉱床です。
今回、研究チームが詳細な調査を行った結果、これまで知られていなかったレアアースを含有する鉱物の存在が明らかになりました。
SNSやニュースメディアでも「群馬でレアアース発見」と話題になりましたが、正確には「レアアースを含む新しい種類の鉱物が、学術的な調査によって特定された」という科学的な成果です。

2-2. 「レアメタル」と「レアアース」の違いと群馬の重要性
今回の発見は、科学的・学術的な側面において極めて高い価値を持っています。
レアアースはハイテク製品に不可欠な素材であるため、国内の陸地で新鉱物が見つかった事実は、日本の地質学的なポテンシャルを再評価するきっかけとなります。
しかし、産業利用という観点では冷静な評価が必要です。
発見された鉱物は、純粋な科学研究の過程で見つかったものであり、直ちに工業製品の材料として使えるわけではありません。
群馬での発見は、日本列島の形成過程や鉱物の生成メカニズムを解明する上で重要な手がかりを提供しており、将来的な資源探査の技術向上に寄与すると期待されています。
2-3. 陸地採掘のメリットと限界
現時点では、茂倉沢鉱山におけるレアアースの具体的な埋蔵量は公表されていません。
過去に数百トン規模のマンガンが採掘された記録は残っていますが、レアアースに関しては「有望な鉱床である」という評価にとどまり、商業ベースに乗るだけの量が存在するかは不明です。
また、陸上での採掘には、深海とは異なる課題があります。
山岳地帯での採掘は環境への影響が大きく、コストも割高になる傾向があります。
南鳥島のように「数百年分の埋蔵量」が確定しているわけではないため、群馬の事例はあくまで将来的な可能性の一つとして捉え、まずは詳細な埋蔵量調査や成分分析の結果を待つ必要があります。
3. なぜまだ採掘されない?実用化への高いハードルと今後のロードマップ
「資源があるなら、すぐに掘り出して使えばいい」と多くの人が考えますが、現実はそう単純ではありません。
商業化(ビジネスとしての成立)には、技術とコストの両面で高いハードルが存在します。
3-1. 技術的・コスト的な課題:「採算」は取れるのか
最大の課題は、採掘と精錬にかかるコストが、安価な輸入品と比べて採算が取れるかどうかという点です。
深海6,000メートルからの揚泥には、高度な技術と莫大な費用がかかります。
エアリフト方式(圧縮空気を送り込み、上昇気流で泥を吸い上げる方法)の安定運用や、深海の高圧に耐えるパイプ(ライザーパイプ)の強度確保など、解決すべき技術課題は山積しています。
また、資源開発には「死の谷」と呼ばれる、研究段階から実用化へ移行する際の資金的な難所があります。
さらに、引き上げた泥からレアアースを取り出す「精錬」の工程も、現在は中国が世界シェアの9割を握っており、日本国内には大規模な精錬設備やノウハウが不足しています。
環境負荷を抑えつつ、低コストで精錬する技術の確立が急務です。
3-2. 政府の最新動向と2030年へのロードマップ
日本政府は、これらの課題を克服し、2020年代後半から2030年頃を目処に商業採掘を開始する目標を掲げています。
2025年から2026年にかけての実証試験を継続し、技術的な確証を得た後、2027年以降は商業化に向けた具体的なインフラ整備や法制度の構築へ移行する計画です。
民間企業が参入しやすい環境を整えるため、JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)などが主導し、リスクを分散しながら開発を進めています。
2030年頃に初期生産を開始できれば、日本の資源事情は劇的に変化します。
3-3. 私たちの生活はどう変わる?日本が資源国になる未来
国産レアアースの採掘が実現すれば、日本の製造業は安定した資源供給を受けることが可能になります。
EVや風力発電といった脱炭素社会のキーテクノロジーを、海外の情勢に左右されずに自国で賄えるようになる意味は絶大です。
また、都市鉱山(使用済み小型家電などからのリサイクル)と、南鳥島のような天然資源の採掘を組み合わせることで、より強固な供給網(サプライチェーン)を構築できます。
日本が「資源を持たない国」から「資源を自立的に確保できる国」へと生まれ変わる未来に向け、官民一体となった挑戦が続いています。
日本国内でのレアアース採掘は、南鳥島沖での深海開発が本命であり、群馬県などの陸上鉱床は科学的な可能性を探る段階にあります。
技術やコストの壁は依然として高いものの、中国依存からの脱却という国家的な使命を背負い、プロジェクトは着実に前進しています。
2030年の実用化を目指す今後の動向に、引き続き注目していく必要があります。